聖 書 研 究
マタイによる福音書 第7章



中村栄光教会牧師 北川一明

聖書略号表写本一覧は別枠表示です


《凡例》

【聖書】
新約聖書:Nestle-Aland 27th ed.

【参考文献】
(省略)
【略号】
聖書名略号はUBS略号に従いました
本文批評における写本はNestle-Alandに準拠、ただしSinは01を表わします写本の重要性については粗雑な一覧を作成しましたので利用者の責任でご利用ください






T.裁くな
 A.逐語訳
1a:裁いているな、 1b:それは裁かれないため。
2a:なぜなら、あなたがたが裁く審判権威によって裁かれるだろう、 2b:そしてあなたがたが測る測量基準によってあなたがたが量られるであろう。
3a:が、なぜあなたの兄弟の目の中のおが屑を見るのか、 3b:それなのにあなたの目の梁桁に気が付かないで。
4a:むしろ、あなたの兄弟にどうやって言うだろうか、 4b:あなたの目からおが屑を棄てることを許せ、と、 4c:が、見よ、梁桁があなたの目の中に。
5a:偽善者よ、 5b:まずあなたの目から梁桁を棄てよ、 5c:そして次にあなたの兄弟の目からおが屑を棄てるのによく見えるだろう。

 B.聖書対観と本文批評
1a,b:時制はLk6:37a,bと一致するが、Lkはkaiで繋げて結果的に裁かれないとするのに対してMtはinaで繋げてはっきり「裁かれないために裁かない」というニュアンス。Lk37c,d,e,f「断罪すな、さらば断罪せられざれん、赦せ、さらば赦されん」がない。
2a:Lkになく、Lk6:38a-cの唐突な挿入に比して論理的に裁きの基準を問題にしていることが分かる。 2b:一転してLk6:38dに一致する。Θ、f13はLkに併せて「測る」を「量り返される」。この後Lk6:39,40はないが、Lkが無理な挿入の印象を与える。
3a:Lk6:41aに完全一致。 3b:Lk6:41bとほぼ一致。
4a:「言う」の語彙をLkに併せるもの(Sin)がある。 4b:後代に「目から」をekでなくapoにするもの(W、Θ他)がある。
5 :内容的にはLk42:3-gに一致し、語彙も近似。L、W、Θ、Ψ、f1,13、33はcの語順をLkに併せる。


U.格言の挿入
 A.逐語訳
6a:聖なるものを犬には与えず、あなたがたの真珠を豚の前に投げず、 6b:そうでなければそれらを踏みつけるだろう、それらの足で、そしてあなたがたに向き直って挑み掛かって。

 B.本文批評、伝承史
 「踏みつけるだろう(fut.)」をSin、fがsubjunctive。他の福音書に並行記事がない世俗的な格言である。前後の文脈に全く一致しないこと、犬、豚が異邦人の隠喩であり得ることから、たとえばQ資料にあったものをLkは削除したがMtは忠実に書き写したことも想像されるが、その場合にはQが世俗格言をここに用いた意図が問われる。そこでマタイであれQであれ、代替不能の純粋な隠喩として採用した可能性があるものと思われる。


V.門は開かれる
 A.逐語訳
7a:求めよ、そうすればあなたがたに与えられるであろう、 7b:探せ、そうすれば見出すだろう、 7c:ノックせよ、そうすればあなたがたに開かれるだろう。
8 :なぜなら全て求める者は取り、また探す者は見出し、またノックする者は開かれるだろう。
9a:あなたがたの中でこのような人間が誰かあるだろうか、 9b:その子がパンを求めるだろう際、 9c:石を彼に与えないだろう。
10a:または魚を求めるだろうに、 10b:彼に蛇を与えないだろう。
11a:それで、もしあなたがたが邪悪であっても良い贈り物をあなたがたの子供らに与えることを知っている、 11b:天にあるあなたがたの父はもっと多く善き者を求める彼らに与えるだろう。
12a:だから全て何でもあなたがたにするのを望むことならば、 12b:そのようにあなたもまた彼らに為せ、 12c:なぜならそれが律法であり預言者である。

 B.聖書対観/本文批評/伝承史
7,8:並行箇所(Lk11:9b-d)と文言上も一致するQ資料由来部。8はおそらく原伝承以来「取り」「見出し」がpresentであるにもかかわらず「開かれるだろう」のみfutureであるものを、Bのみpresentに書き替えるが、Lk並行箇所にp75、Dの支持があるのみでMtは他の写本の支持はない。
9,10:Lk11:10,11は「パンと石」の比喩を略し、両者に共通する「魚と蛇」の後に「卵とさそり」を配置する。Mtに写本の乱れはなく、むしろp45, 75、Bを除いたLkが「パンと石」を入れていることから、Q原型はMtが忠実に模した可能性が高い。Mtでは外形の類似と有益、無益の対比が隠喩の効果になっているが、Lkでは外形の類似が失われ、有益と有害の対比に意味が強められている。
11 :「善きもの」をLkは「聖なる霊」に書き替える。Lkがより神学的であることから、Mtが原伝承に近いことは容易に想像できる。他はLk並行箇所と内容的にほぼ一致し、字句の違いも写本上はMtの側が安定している。
12 :Lkは愛敵命令の後に配置される黄金律だが、Mtが字句に修飾を加えてここに置いている。Mt冒頭の「だから」の欠けた写本(Sin*、L)もあり、文脈上はLkが安定する。


W.狭き門 (公開未定)